ライム病

  1. ライム病とは?
  2. ライム病の原因
  3. ライム病の症状
    • 感染初期(stageⅠ)
    • 播種期(stageⅡ)
    • 感染後期(stageⅢ)
  4. ライム病の診断
  5. ライム病の治療
  6. ライム病の予防法と対策

1. ライム病とは?

ライム病は、マダニに刺されることで発症する人獣共通感染症です。刺された部分の皮膚症状を伴うインフルエンザのような症状にはじまり、神経症状や心疾患、目の異常、関節炎や筋炎といった多彩な症状が時間とともに全身に広がっていきます。

この病名は、1975年、アメリカのコネチカット州ライムで初めて確認された病気であることに由来します。北アメリカやヨーロッパでの報告が多い疾患ですが、中国や日本でも感染者が出ています。

日本での報告数は年間10例ほどと少ないのですが、アメリカでは年間3万人、ヨーロッパでは年間8.5万人もの患者が出ています。ただ、日本のマダニの病原菌保有率は欧米と同等程度のため、潜在的に未診断のライム病患者もいると推測されています。

2. ライム病の原因

ライム病の原因となるのは、ライム病ボレリアという菌です。ライム病ボレリアは、ノネズミや小鳥などに保菌されており、マダニを媒介してヒトに感染します。日本でライム病を媒介するのは、マダニの中でもシュルツェマダニという種類です。

シュルツェマダニの生息域は涼しい地域が中心で、北海道と青森県の山間部および平野部、本州や四国、九州の標高1,000メートル以上の山間部に限られます。このため、ライム病を発症するのはこれらの地域に住んでいる、もしくは旅行などで立ち寄ってマダニに刺された方となります。海外の流行地域からの帰国後に、ライム病の感染が分かるケースもあります。

3. ライム病の症状

3-1. 感染初期(stageⅠ)

マダニに刺されて数日後~2週間ほどで、刺された部分(刺咬部)を中心とした赤いふくらみ(浮腫性紅斑)が出てきます。この赤いふくらみはだんだんと拡大し、大きさは10㎝を超えることもあります。紅斑の中心部に退色がみられるケースもあります。

この皮膚症状は遊走性紅斑と呼ばれ、ライム病の特徴的な初期症状です。遊走性紅斑の出現期間は数日から数週間で、その後は自然に消えていきます。

遊走性紅斑に伴う症状として、筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、倦怠感と言ったインフルエンザのような症状がでることもあります。こちらは軽症で気づかれないケースもあります。

3-2. 播種期(stageⅡ)

感染初期(stageⅠ)に治療を受けなかった場合に、播種期(はしゅき)に移行することがあります。

感染後数週から数ヶ月がたった播種期には、皮膚で増殖したライム病ボレリアがリンパや血液の流れに乗り、全身に広がっていきます。到達した先の臓器で、ライム病ボレリアは以下のようにさまざまな症状を引き起こします。神経や心臓に重い症状があらわれるケースもあり、注意が必要です。

(1)皮膚:二次性遊走性紅斑やボレリアリンパ球腫

(2)神経:髄膜炎や脳神経炎、神経根炎、顔面神経麻痺といった神経症状

(3)心臓:不整脈や心筋炎などの心疾患

(4)目:結膜炎や角膜炎

(5)骨や筋肉:関節炎、筋炎

3-3. 感染後期(stageⅢ)

播種期(stageⅡ)移行後にも治療ができなかった場合には、感染後期に移行します。

感染から数ヶ月~数年がたつと、播種期の症状に加え、慢性萎縮性肢端皮膚炎(四肢の外側の皮膚がひだ状になる病気)などの皮膚症状や、慢性脳脊髄炎、慢性髄膜炎、ひどい腫れや痛みを伴う慢性関節炎が起こります。

4. ライム病の診断

ライム病の診断は、問診や検査によって行われます。

問診でマダニとの接触があったことが判明し、ライム病に特徴的な遊走性紅斑がみられる場合には、確定診断のための検査と並行し、ライム病と考えて治療を開始していきます。

確定診断のためには、紅斑部の皮膚を採取する皮膚生検や、血液を採取しての検査を行う場合があります。ライム病ボレリア特有のDNAをPCR法で検出できます。髄膜炎や脳炎を起こしている場合は、髄液を採取して検査する場合もあります。

いずれの検査方法も、保健所を通じて検査を依頼し、国立感染症研究所で検査を実施する必要があります。そのため、確定診断には時間がかかります。ライム病は全数報告が必要な4類感染症です。

5. ライム病の治療

マダニとの接触、特徴的な遊走性紅斑によりライム病と考えられた場合は、確定診断を待たずに抗菌薬による治療を始めていきます。ライム病ボレリアには、テトラサイクリン系、ペニシリン系、セフェム系の抗生物質がよく用いられます。

感染初期(stageⅠ)では、ビブラマイシン錠(ドキシサイクリン塩酸塩水和物)が第一選択薬とされます。そのほか、サワシリン錠/カプセル(アモキシシリン水和物)、オラセフ錠(セフロキシムアキセチル)などの内服薬が用いられ、いずれも2週間投与されます。

播種期(stageⅡ)へと進行した症例では、髄膜炎などの神経症状に対し、セフェム系抗菌薬の点滴治療が行われます。第一選択はロセフィン静注用(セフトリアキソンナトリウム)です。また、炎症の軽減のために非ステロイド性抗炎症薬が使われることもあります。

ライム病同様にマダニに媒介される感染症に、エーリキア症やアナプラズマ症などの病気があり、同時感染が疑われるケースがあります。この場合はビブラマイシン錠(ドキシサイクリン塩酸塩水和物)、アクロマイシンVカプセル(テトラサイクリン塩酸塩)などを使用します。

なお、ライム病の専門的な診断・治療に関しては、当院では、大学病院などの専門の施設をご紹介させていただいております。

6. ライム病の予防法と対策

今の日本には、ライム病予防を目的としたワクチンはありません。ライム病はマダニによって媒介される病気であるため、マダニに刺されないようにすることが何よりの予防法です。マダニの活動期である春から秋にかけては、むやみに生息地のやぶなどに立ち入らないようにしましょう。

もしもマダニが生息する野山に出かける際は、長袖長ズボンで皮膚の露出を避けた服装をすることが重要です。服のすそをズボンや靴に入れる、首にタオルを巻くなどしてマダニの付着を防ぎましょう。また、明るい色の服を選ぶことで、マダニの付着を見つけやすくなります。

補助的な役割として、虫よけ剤も効果があります。虫よけ剤には有効成分のディート、イカリジンが配合されたものを使用します。どちらの薬剤も、マダニへの有効性が認められています。

ディートの方が長時間効果が続きますが、年齢による使用制限があります。生後6か月未満の赤ちゃんには使用できず、生後6か月~2歳未満では1日1回、2歳~12歳では1日1~3回の使用となります。顔への使用は避けてください。12歳以上では、使用制限はありません。イカリジンは年齢による使用や回数の制限がないため、お子さんにも気兼ねなく使うことができます。

帰宅後には早めに入浴して全身をチェックし、マダニに刺されていないか確認します。万が一マダニに刺されていた場合は、食いついたマダニを自分で引き抜くことはせず、そのまま皮膚科を受診して適切な処置を受けてください。

なお、ライム病の専門的な診断・治療に関しては、当院では、大学病院などの専門の施設をご紹介させていただいております。

一般皮膚科

前の記事

疥癬
一般皮膚科

次の記事

ほくろ