掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)

  1. 掌蹠膿疱症とは?
    • 掌蹠膿疱症の特徴
    • 手足以外の症状
  2. 掌蹠膿疱症の原因
    • 病巣感染
    • 喫煙習慣
    • 腸内環境の悪化
    • 歯科金属アレルギー
  3. 掌蹠膿疱症の診断と検査
  4. 掌蹠膿疱症の治療
    • 生活指導
    • 悪化因子の除去
    • 外用療法
    • 全身療法
    • 紫外線療法
  5. 掌蹠膿疱症になった時の注意点

1. 掌蹠膿疱症とは?

1-1. 掌蹠膿疱症の特徴

掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)は、手掌と足蹠(足の裏)に多発する皮膚疾患です。水疱や膿疱の形成を繰り返すうち、赤い発疹(紅斑)や細かな表皮のめくれ(鱗屑)を伴うようになっていきます。

この病気はひどくなったり改善したりを繰り返しながら、慢性的な症状となって長引く場合があります。経過が長くなると、苔癬化紅色局面となり、手湿疹などとの鑑別が難しくなることがあります。膿疱には菌の要素は入っていません。そのため、患部が身体の他の部位や他人に触れてしまっても、感染することはありません。

日本では約14万人の患者がいると推定されています。男性に比べて女性の患者が多 く、40-60歳代の年齢が多いです。

1-2. 手足以外の症状

爪に掌蹠膿疱症の症状が出ると、爪の下に膿疱やくぼみができたり、爪の変形が起こることもあります。

手のひらや足の裏以外にも症状が出てくることがあり、これを掌蹠外皮疹(しょうせきがいひしん)、もしくは掌蹠外病変(しょうせきがいびょうへん)といいます。掌蹠外皮疹は足の甲や膝、脛、臀部や肘などにあらわれます。

掌蹠膿疱症では皮膚以外の症状として、骨や関節の痛みを伴うことがあります。この症状を掌蹠膿疱症性骨関節炎(しょうせきのうほうしょうせいこつかんせつえん)といいます。

掌蹠膿疱症性骨関節炎では、胸骨と鎖骨、胸骨と一番上の肋骨、上下の胸骨の結合部などに痛みや炎症を起こすケースが多いです。背骨や腰の骨、手足の骨にも症状が出ることもあり、人によっては、手足の皮膚症状より先に関節痛があらわれる場合もあります。

2. 掌蹠膿疱症の原因

2-1. 病巣感染

掌蹠膿疱症の方は、皮膚以外の部分に感染部位を持っていることが多いです。80%以上の例において、他の部位に病巣感染をもっているという報告もあります。

この病巣を治療することで、皮膚症状や関節炎が治癒・軽快する可能性があります。扁桃腺や歯科領域の炎症、副鼻腔炎や上気道炎などが原病巣であることが多く、治療にあたっては耳鼻科や歯科と連携することがあります。自覚症状のない、無症状の潜在炎症が原因となっていることも多いため、原発病巣に気づきにくいのがやっかいな点です。

2-2. 喫煙習慣

喫煙が掌蹠膿疱症の発症に関わっており、症状を悪化させることも知られています。喫煙によって炎症物質が増加することや、他の因子を悪化させることに原因があるのではといわれています。データにもよりますが、掌蹠膿疱症の方のうち62~94.9%の方が喫煙者であったとの報告もあります。禁煙だけで皮膚症状を治すことは難しいのですが、喫煙を続けていると治療がうまくいかないことがあるため、治療と並行して禁煙指導が行われます。

2-3. 腸内環境の悪化

便秘症や下痢症、過敏性腸症候群のほか、潰瘍性大腸炎やクローン病といった症状と掌蹠膿疱症が合併しているケースもあります。この場合、腸内環境の改善に伴って皮膚症状や関節炎が改善する例があります。必要に応じて内科と連携した治療を行っていきます。

2-4.歯科金属アレルギー

歯科金属アレルギーが、掌蹠膿疱症の発症に関係しているとの報告もあります。しかし、金属器具の除去時だけでは改善しない例も多く、明確な関連性は研究中の段階です。金属除去と同時に歯科領域の炎症治療が行われることも多く、これが症状改善につながっているケースも多いとみられます。

3. 掌蹠膿疱症の診断と検査

掌蹠膿疱症の診断にあたっては、診察・肉眼所見に加えて、問診や検査も重要です。

問診では、喫煙歴のほか、扁桃炎や歯周炎、副鼻腔炎など病巣感染が疑われる疾患の有無、下痢や便秘など腸内環境の悪化を引き起こしている状態がないか、前胸部痛など骨関節症状が出ているかを確認します。

骨関節症状が出ている場合は、リウマチ科や整形外科への紹介ののち、連携して治療を行います。

検査については、ダーモスコピーという拡大鏡を使って膿疱の観察を行い、必要であれば皮膚生検も行います。梅毒などの感染症による膿疱との区別を目的に、血液検査が行われることがあります。特に骨関節症状が出ている場合は、関節炎の程度を確認したり、関節リウマチとの区別をつけるためにも血液検査が有用です。白癬や疥癬などの真菌感染症との区別を目的に、真菌の有無を調べる検査を行うことがあります。歯に痛みなど症状がある場合はもちろん、そうでない場合も歯科受診を依頼することがあります。自覚症状のない炎症の有無を調べ、歯科の病巣感染がないか確認します。骨関節症状が出ている場合に、リウマチ科、整形外科などの受診もお願いすることがあります。

4. 掌蹠膿疱症の治療

掌蹠膿疱症の治療には、生活指導、発症や悪化の因子の除去、そして対症療法があります。

4-1. 生活指導

喫煙中の場合は、症状の悪化を防ぎ治療への反応を良くするために禁煙指導をします。歯科領域や耳鼻科領域の炎症性の病気を防ぐために、口腔ケアの指導が行われることもあります。

4-2. 悪化因子の除去

掌蹠膿疱症の悪化因子の除去のため、病巣感染を治療します。歯周炎などの歯科領域の治療や、副鼻腔炎の治療、腸内環境のコントロールなどを行っていきます。

扁桃腺炎がある場合、扁桃腺の摘出手術によって掌蹠膿疱症が改善することがあります。摘出手術を行うかどうかは、耳鼻科にご相談する形になります。

4-3. 外用療法

外用療法で使われるのは塗り薬で、副腎皮質ステロイド外用薬と活性型ビタミンD外用薬です。

副腎皮質ステロイド外用薬には、アンテベート軟膏/クリーム(ベタメタゾン酪酸プロピオン酸エステル)、マイザー軟膏/クリーム(ジフルプレドナート)、フルメタ軟膏/クリーム(モメタゾンフランカルボン酸エステル)などがあります。()で示したのは薬品の成分名で、ジェネリック医薬品ではこちらの名前になっていることが多いです。

活性型ビタミンD3外用薬には、オキサロール軟膏(マキサカルシトール)、ボンアルファ軟膏/クリーム(タカルシトール水和物)などがあります。

また、細かな表皮のめくれ(鱗屑)や角質が厚くなりすぎるといった症状が出た場合は、角質軟化剤のサリチル酸ワセリン軟膏(サリチル酸製剤)を併用する場合もあります。

4-4. 全身療法

掌蹠膿疱症の全身療法には、皮膚症状に対するものと関節症状に対するものがあります。

皮膚症状に対する全身療法では、チガソンカプセル(エトレチナート)という薬が保険適用を受けています。ほか、感染病巣の治療のために抗菌薬を使用したり、漢方薬の処方や、高容量のビオチン散(ビオチン製剤)を使うこともあります。また、顆粒球単球吸着除去療法といって、血液中から過剰な炎症の原因となる白血球を選んで取り除く治療方法もあります。

関節症状に対する全身療法では、皮膚症状に対して用いられる薬に追加して、痛みや炎症を抑える薬を使います。非ステロイド性抗炎症薬のロキソニン錠(ロキソプロフェン)、セレコックス錠(セレコキシブ)などや、炎症時の白血球の反応を抑えるコルヒチン錠(コルヒチン)が使われます。症状によっては、骨粗鬆症の薬であるビスホスホネート製剤を使うケースもあります。

皮膚症状、関節症状共に、ここまでの治療で効果が不十分な場合、免疫抑制効果をもつ薬の使用が検討されます。ネオーラルカプセル/内用液(シクロスポリン)、オテズラ錠(アプレミラスト)、トレムフィア皮下注(グセルクマブ)などが選択肢となります。

4-5. 紫外線療法

掌蹠膿疱症に対する有効性が証明され、保険適応をもった紫外線療法として、ナローバンドUVB療法、エキシマレーザー・ライト療法、外用PUVA療法があります。

ナローバンド UVB とは、311±2nmの波長を持つ紫外線の光源です。これを患部に照射して治療を行っていきます。308nmにピーク波長を持つエキシマライトを用いた、エキシマレーザー・ライト療法を行う場合もあります。

外用PUVA療法では、光感受性を高める薬剤のオクソラレン錠/軟膏/ローション(メトキサレン)と長波長の紫外線A波を併用します。PUVA療法は、近年、より安全性の高いナローバンドUVB療法に取って代わられつつあります。

掌蹠膿疱症になった時の注意点

禁煙を行うことや、良い口腔環境を保つために口腔ケアを行うことが大切になります。患部の皮膚への刺激は避けてください。アルコールを飲みすぎないようにし、過度のストレスを避けるなどして、常日頃から体調を整えるよう心掛けてください。風邪を防ぐことで、悪化因子である副鼻腔炎や扁桃炎の予防につながります。腸内環境を保つため、規則正しい食生活をすることも重要です。骨関節症状が出ている場合は、痛みのある部位を安静に保ってください。

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