麻疹
- 麻疹とは?
- 麻疹の原因
- 麻疹の診断
- 麻疹の治療
- 麻疹の予防
- 麻疹になったときの注意点
1. 麻疹とは?
麻疹は「はしか」とも呼ばれ、麻疹ウイルスによって引き起こされる病気です。
感染するとまず10~12日後に、熱、咳、鼻水といった風邪のような症状が出てきます。この発症初期をカタル期といい、口内の頬の内側にはコプリック斑と呼ばれる特徴的な白い斑点があらわれます。周囲への感染力が、最も強い時期でもあります。
2~3日熱が続いた後で、39℃以上に発熱し発疹が出現します。この時期を発疹期といいます。発疹は顔面や耳の後ろからはじまり、体や手足に拡大していきます。最終的には発疹同士が融合し、体の広範囲が赤みに覆われる形となります。この時期には、咳や鼻水も重症化します。
回復期に入ると熱が下がり始め、発疹は茶褐色の色素沈着を残したあと、だんだんと消えていきます。
麻疹では合併症を起こす確率が高く、全体の約30%に何らかの合併症が認められています。特に肺炎や中耳炎などが起こりやすく、1000人に1人ほどの割合で脳炎を発症することもあります。麻疹によって起こる脳炎は重症で、重度の後遺症を残したり死亡することが多くなっています。
また、頻度は低いものの、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という重大な合併症が起こる場合もあります。これは麻疹ウイルスが脳内に持続感染し、慢性的に進行する病気です。麻疹が治ってから数年~10年ほどで発症し、精神症状や運動障害、体がピクッと動く不随意運動などが出てきます。進行すると意識を失ったり、自発的な運動が困難になり、命を落とすこともあります。
2. 麻疹の原因
麻疹は、麻疹ウイルスに感染することで引き起こされます。
麻疹ウイルスは空気中に飛んでいるウイルスを吸い込む空気感染や、咳やくしゃみで飛び散ったウイルスを吸い込む飛沫感染で感染します。
麻疹ウイルスは感染力が非常に高いため、免疫のない人がウイルスに接触すると、ほぼ全員が発症するとされています。一般的なマスクの装着や手洗いを行っても、感染を防ぐことは難しくなります。
一度感染して発症したあとは、ほとんどの場合で生涯にわたって免疫が持続します。
3. 麻疹の診断
問診と、発熱や発疹の様子、口内の特徴的な白い斑点のコプリック斑などから麻疹を疑うことができます。近年は海外からの帰国者が麻疹を発症する例も多いため、渡航歴の聞き取りも行います。
麻疹は全例が国への届け出の対象となっている疾患なので、保健所に届け出たのちに確定診断のための検査を行います。
なお、母親に由来する免疫が残る乳児期や、予防接種後にうまく免疫を獲得できなかった例での感染の場合、典型的な症状のあらわれない「修飾麻疹」と呼ばれる状態になることがあります。この場合も検査を行うことで確定診断ができます。
咽頭ぬぐい液(鼻の奥を綿棒でこすって採取する粘液)や血液、尿などから、麻疹ウイルスの遺伝子が存在するかどうかを調べる遺伝子検査を行います。他に、血液検査によって麻疹ウイルスに対する抗体の量を調べることでも確定診断ができます。
肺炎や脳炎など、重い合併症が疑われる場合は、症状に応じてCT、MRIなどの画像検査を行うこともあります。
4. 麻疹の治療
麻疹ウイルスに有効な抗ウイルス薬は、いまだ開発されていません。
発熱やのどの痛みに対する解熱鎮痛薬の内服や、高熱による脱水への点滴治療などの対症療法を行っていきます。
肺炎や中耳炎などを合併した際は、細菌の二次感染に対して抗菌薬を使用します。麻疹にかかっている間は免疫力が大きく下がるので、他の細菌などが感染しないよう予防に気を配ります。
麻疹の院内感染を防ぐため、入院中は感染対策のなされた個室に隔離となります。医療従事者も防護服、N95マスクを装着して対応します。発疹が消えるまでは他者への感染の可能性があるとも言われ、注意が必要です。
免疫を持っていない人が麻疹ウイルスと接触した場合は、72時間以内に麻疹含有ワクチンを緊急接種することで発症予防をねらいます。このワクチンは、一般的なMRワクチンで構いません。72時間を過ぎてしまっても、できるだけ早めにワクチンを接種することで、重症化の予防が期待できます。
5. 麻疹の予防
麻疹には、現在のところウイルスに対する特効薬がありません。感染力が高く、マスク着用や手洗いなどでの予防効果も限定的です。したがって、予防接種が最も有効な対処法になります。
麻疹の予防接種としては、麻疹と風疹のワクチンが混合されているMRワクチンを接種することが一般的です。麻疹(measles)のM、風疹(rubella)のRを取ってMRと名付けられています。
MRワクチンは、弱毒化したウイルスを使用して作られている生ワクチンです。乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチンミールビック、乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチン「タケダ」、はしか風しん混合生ワクチン「第一三共」といった複数の種類があります。妊娠中の方や、妊娠の可能性がある場合は接種ができません。接種から2か月間は、妊娠を避ける必要があります。
定期接種では未就学のうちに、2回の接種を行います。1回目は1歳のとき、2回目は小学校入学前の1年間に受けることとなっています。この定期接種は、公費で受けることができます。
ワクチン接種によって、95%以上の人が麻疹ウイルスと風疹ウイルスへの免疫力を得られるとされます。ワクチンが普及したことにより、日本国内での麻疹発症は大幅に減少しました。世界保健機関(WHO)は、2015年に日本が麻疹の排除状態にあると認定しています。
しかし、海外からの観光客から麻疹が広がった例や、海外旅行でワクチン接種率の低い熱帯や亜熱帯を訪れたあと、帰国後に麻疹を発症する事例が出ています。近年の麻疹発症者の多くは、ワクチンを未接種の方であると報告されています。麻疹の排除状態を維持していくためにも、ワクチン接種を続けていく必要があります。
6. 麻疹になったときの注意点
麻疹の感染力は非常に高いので、医療機関への移動の際にはできるだけ公共交通機関の利用を避けてください。はじめに麻疹の疑いがあることを医療機関に電話などで確認し、受診の必要があるかどうかや、受診の際の注意点などを確認しましょう。少しでも周囲への感染を抑えるため、移動時にはマスクの着用をお願いします。