単純ヘルペス(口唇、陰部)
- 概要
- ウイルスの種類と疾患の違い
- 症状
- 診断
- 治療法
- 注意事項
1. 概要
単純ヘルペスは、単純性ヘルペスウイルス(HSV)のHSV-1型またはHSV-2型の2種類のウイルスにより皮膚や粘膜に感染して、痛みを伴う水疱やびらんなどを引き起こします。HSVは皮膚や粘膜の直接接触することで、表皮細胞に侵入し、増殖して顕性もしくは不顕性感染を引き起こします。初感染の多くは不顕性感染で終わります。HSVは、神経終末から軸索内を逆行性に上行し、知覚神経節の神経細胞に潜伏感染します。その後、風邪を引く、紫外線、怪我や手術、精神的ストレス、などで宿主の免疫機能が低下すると、再発を繰り返します。
単純性ヘルペスウイルスが、体内に潜伏している人の割合は年齢が高くなるにつれて多くなり、70歳以上はほとんどの人が無自覚のまま感染しているというデータもあります。大人になってから初めて単純性ヘルペスウイルスに感染すると、一般的に症状が重くなりやすいと言われています。
2. ウイルスの種類と疾患の違い
- HSV-1型
主に口唇や口腔、目などの顔面・上半身で発症し、口唇ヘルペスやヘルペス角膜炎、歯肉口内炎などを引き起こします。
- HSV-2型
主に陰部・下半身で発症し、性器ヘルペスを引き起こします。
3. 症状
単純ヘルペスの症状は、皮膚、口、唇、目、性器などでピリピリやチクチクするような不快な痛み、ムズムズするようなかゆみなどの自覚症状が現れ、赤く腫れる、痛みを伴う0.5~1.5cmくらいの小さな水疱などの症状が出てきます。
初めて感染したときは、多くの場合で無症状だと言われていますが、単純性ヘルペスウイルスに対して免疫を持っていないため、高熱などの全身症状を伴う場合もあります。潜伏期間は2-10日ほどです。
また、性器ヘルペスの場合、水疱の他に赤いブツブツや皮膚のただれなども現れます。排尿時痛や歩行時の痛みなど出ることもあります。
皮疹は小水疱を形成した後、すぐにびらん化し、痂皮を形成します。発症部位により、ヘルペス性歯肉口内炎、口唇ヘルペス、顔面ヘルペス、ヘルペス性ひょう疽、性器ヘルペス、臀部ヘルペスなどがあります。
4. 診断
痛みや発熱などの前駆症状の後に、小水疱の集簇が現れます。繰り返し同じ場所に皮疹が現れる場合には、再発性単純ヘルペスを考えます。また、家族やsexual partnerの単純ヘルペスの有無を確認します。単純ヘルペスに似た症状を示す梅毒やベーチェット病、固定薬疹などとの鑑別も必要になります。
そのほかに、Tzanck試験、蛍光抗体法、抗原検出、血清型の抗体陽転などによる確定診断もあります。マルホ株式会社が2023年1月に単純ヘルペスの診断に使える検査キットを発売しました。今後、検査はより簡便になると考えられます。
5. 治療法
抗ウイルス薬
基本は抗ヘルペスウイルス薬の内服をします。全身療法として一般的にアシクロビル(ゾビラックス)、バラシクロビル(バルトレックス)、ファムシクロビル(ファムビル)といった抗ヘルペスウイルス薬の内服薬を用います。
性器ヘルペス初感染やカポジ水痘様発疹症で全身症状が強い場合、免疫抑制患者の単純ヘルペス感染症では、入院しての点滴療法を考慮します。
再発頻度の少ない軽症の口唇ヘルペスに対しては、抗ウイルス薬の塗り薬であるアラセナ-A軟膏やゾビラックス軟膏を使用した治療を行います。外陰部ヘルペスでは、外陰部のみでなく膣や子宮頸部にも病変があるため、外用薬のみの治療は推奨されません。
PIT療法
PIT(Patient Initiated Therapy)療法は、年に3回以上再発する単純ヘルペスの治療法として行われます。患者の判断で薬の服用を始められる治療法として保険適用になっています。抗ヘルペスウイルス薬のファムビルやアメナリーフをあらかじめ処方しておきます。患部の違和感や灼熱感、かゆみなどの初期症状が出現したら、服用する方法です。
このように常に薬を患者が携帯しておくことで症状の違和感が出てからすぐに服用ができ、症状が出てからも軽快までの期間を短縮することが可能です。この治療法は、患者が再発症状を正確に判断できること、再発症状が比較的軽度の人に向いています。
性器ヘルペスの再発抑制療法
年に6回以上再発するHSV-2による性器ヘルペスでは、抗ウイルス薬を継続投与する再発抑制療法があります。バルトレックスの毎日服用を継続し、1年間服用することで、ウイルスの増殖を抑制して体内のウイルス量を減らすと同時に、ウイルスの活性そのものを抑え込む治療法です。中止後に少なくとも2回の再発を確認した場合は、投与の更なる継続の必要性を検討します。
注意事項
単純ヘルペスは、風邪や疲労感、紫外線による日焼け、精神的ストレスで再発しやすいことが知られていますので、日常生活に気をつけながら過ごしていくことも大切になります。痛みや痒みが出始めた段階で早めに受診するようにしましょう。また水疱が割れたりしてしまうと感染をさらに広めてしまう原因にもなるので触らないようにしましょう。
HIV(エイズウイルス)感染症患者では,HSV感染が特に重度となる可能性があり、進行性かつ持続性の食道炎、大腸炎、肛門周囲潰瘍、肺炎、脳炎、髄膜炎が起こる可能性があります。
アトピー性皮膚炎など元々皮膚のバリア障害がある場合、播種性に感染病変が広がるかポジ水痘様発疹症が生じることがあり、注意が必要です。